外資系企業の会社登記

外国法人の子会社として合同会社を選ぶメリットとデメリット

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外資系企業には合同会社が多い理由

合同会社には、迅速な意思決定が可能であること、組織の運営が柔軟であること、設立や運営のコストが低いことなどのメリットがあるため、株式会社というブランドにこだわらない外国法人は、日本子会社として合同会社を設立するケースがよくあります。

外資系企業として有名な合同会社には、以下ような事例があります。

  • エクソンモービル・​ジャパン合同会社
  • P&Gマックスファクター合同会社(現P&Gプレステージ合同会社)
  • シスコシステムズ合同会社
  • A​p​p​l​e​ J​a​p​a​n​合同会社
  • アマゾンジャパン合同会社
  • グーグル合同会社
  • 合同会社 西友
  • ユニバーサルミュージック合同会社
  • 日本アムウェイ合同会社

外国法人の子会社として合同会社を選ぶメリット

外国法人の子会社として合同会社を選ぶメリットとしては、具体的には、以下のような点が挙げられます。

迅速かつ柔軟な意思決定が可能

株式会社においては、最低でも、株主総会と取締役1名を置く必要がありますが、合同会社には、これらの機関を置く必要はありません。よって、株主総会や取締役会を開催する必要はありません。合同会社では、出資者である社員が自ら会社の業務執行の決定を行います。社員が複数いる場合でも、意思決定のための会議の開催は不要です。

定款の認証が不要

株式会社を設立するには、発起人が定款を作成し、公証人の認証を受けなければなりません。定款の認証には、公証人の手数料がかかります。また、認証手続においては、発起人の登記事項証明書、印鑑証明書を提出する必要がありますが、日本で登記されていない外国法人が発起人である場合、これらの書類に代わるものとして、宣誓供述書やサイン証明書を提出する必要があり、実務上、こられの書類を用意する手間とコストが生じます。

合同会社の設立においては、定款に公証人の認証を受ける必要はなく、上記のような書類を用意する必要もありません。

出資金を銀行に払い込む必要がない

株式会社を設立する場合は、原則として、発起人名義の銀行口座にその出資金を払い込む必要があります。株式会社の設立登記には、出資金の払込みがあったことを証する書面として、その銀行口座の通帳のコピーを提出する必要があります。よって、発起人名義の銀行口座が必要になりますが、日本に銀行口座を持っていない外国法人が発起人となる場合、別の対応を検討する必要があります。

合同会社を設立する場合は、その出資金を銀行口座に払い込む必要はなく、社員に対して現金を交付することも可能です。この場合、出資金の払込みがあったことを証する書面として、社員が発行する領収書などを提出します。日本に銀行口座を持っていない外国法人が社員となる場合でも、簡単に出資の払込みが可能です。なお、設立後に、新たな社員が加入して出資する場合や社員の出資の価額を増加する場合も同様です。

出資の額のうち、資本金に計上すべき額に下限がない

株式会社においては、出資された財産の額の2分の1以上を資本金に計上しなければなりません。よって、多額の出資をした場合は、資本金の増加額も多額になり、多額の登録免許税が課されます。また、資本金の額が大きくなると、会社法上の大会社規制が適用されるともに、外形標準課税の適用、均等割の増加や超過税率の適用など税制上の負担が増えます。なお、出資された財産の額のうち、資本金に計上されなかった額は、資本準備金に計上されます。

合同会社においては、出資額に対する資本金への計上の規制がないため、出資された財産の額をまったく資本金に計上しない(資本金の増加額を0円とする)ことも可能です。よって、資本金の額が大きくなることによる負担は回避できます。なお、合同会社には準備金という制度がないため、出資された財産の額のうち、資本金に計上されなかった額は、資本剰余金に計上されます。

現物出資について、検査役の調査等の規制がない

株式会社においては、金銭以外の財産を出資(現物出資)する場合は、原則として、裁判所が選任する検査役の調査を受けなければなりません。この検査役の選任と調査には、相当の時間とコストがかかるため、実務上は、これを回避することが一般的です。

合同会社においては、現物出資をした場合でも、検査役の調査は不要です。外資系企業においては、関連会社株式や関連会社への貸付金などが現物出資される事例もあります。

大会社規制の適用がない

株式会社においては、資本金の額が5億円以上又は負債の額が200億円以上である会社(大会社)に該当する場合には、監査役及び会計監査人を設置しなければならず、また、いわゆる内部統制システムの整備も必要となります。

合同会社においては、大会社に該当する場合でも、これらの規制はありません。

役員の任期がない

株式会社の取締役や監査役などの役員には任期があり、一定の期間ごとに改選の手続が必要であり、同じ人が再任された場合でもその登記が必要です。

合同会社においては、役員が置かれないため、その任期もなく、定期的な改選手続やその登記も不要です。

決算公告の義務がない

株式会社においては、毎事業年度の終了後一定の時期に、定時株主総会を招集し、計算書類の承認を受けなければなりません。また、株主総会で承認された貸借対照表(大会社の場合は、貸借対照表及び損益計算書)を官報など定款で定める方法で公告しなければなりません。

合同会社においては、貸借対照表等の公告義務はありません。

米国の税制上、パス・スルーが選択可能

合同会社は、アメリカの税制上、いわゆるチェック・ザ・ボックス(Check-the-Box Regulation)の適用が認められ、アメリカの親法人において、構成員課税(パス・スルー)を選択することができます。親会社である外国法人がアメリカ法人である場合は、子会社として合同会社を選択する大きなメリットとなります。

ただし、日本の税制においては、合同会社も法人税が課され、パス・スルーを選択することはできませんので、注意が必要です。

外国法人の子会社として合同会社を選ぶデメリット

外国法人の子会社として合同会社を選択した場合、若干のデメリットもあります。

持分譲渡による社員変更の登記手続が煩雑

株式会社においては、株式譲渡により、出資者である株主が変動してもその登記は不要です。株主の情報は、株式会社の登記事項とされていないためです。

合同会社においては、出資者である社員が登記されていますので、持分譲渡により、社員が変動すると、その変更登記が必要になります。

合同会社の社員が日本で登記されていない外国法人である場合、この変更登記には、宣誓供述書(Affidavit)などの外国法人の本国での書類が必要になります。

また、社員である外国法人が商号を変更したり、本店を移転したりした場合においても、同様の書類が必要になります。

職務執行者の変更の登記手続が煩雑

合同会社の業務執行社員が法人である場合、業務執行社員の職務を行うべき者(職務執行者)を選任する必要があります。代表社員の職務執行者は登記事項とされており、これが変更された場合は、その変更登記が必要になります。合同会社の社員が日本で登記されていない外国法人である場合、この変更登記には、宣誓供述書(Affidavit)などの外国法人の本国での書類が必要になります。

一定の許認可が受けられない

第一種金融商品取引業、投資運用業、資金移動業、仮想通貨交換業など一定の許認可では、株式会社であることが要件のひとつとされているため、合同会社でこれらの事業を行うことはできません。

まとめ

外国法人の子会社として合同会社を選択することは、多少のデメリットはあるものの、それを上回る多くのメリットがあります。

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